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《Close Up》【MARIA RUDMAN】


 北スカンジナビア・ラップランドの先住民族であるサミの伝統工芸を、古来からの技術を受け継ぐ職人達の手によって、今なおハンドメイドで製作するアクセサリーブランド《MARIA RUDMAN(マリア・ルドマン)》。それは何年も掛け自分の身体に馴染ませていくことで十人十色の経年変化を見せ、丹念になめされたレザーの柔らかさや風合い、錫糸によって編み込まれた独創的な柄やモチーフは、時を経る度に一層の輝きを増していく。

 デザイナーであるマリア・ルドマンは、かつてモデル、スタイリスト、写真家など幅広い分野で活躍。現在はパリに拠点を置く彼女は、北スカンジナビア・ラップランドの先住民族サミによる手芸品が溢れる、スウェーデンの湖のほとりの家に育った。同じくマリアの家系もサミが古くから居住するラップランド地方の血を引く。古来よりトナカイと深い関わりを持ち、共存してきたことでも知られるサミの装飾品は、自然の産物と独創的な手仕事から生まれる。装飾品はお守りの意味を持ち、素材は遊牧民に身近なトナカイの角や革、骨。ベースの“レインディア”とも称されるトナカイの革は使い込むほどに柔らかく、味わいを増していく。酸化しにくい“ピューター”(錫糸)で描かれた刺繍も美しい。古くは17世紀から、何百年と語り継がれる伝統的なアクセサリーを継承すべく、マリア・ルドマンはその研究に幾年も費やし、伝統に現代の要素を加え、ぬくもりあるアクセサリーへと変身させた。「太陽の輪」と「東西南北」を意味する《MARIA RUDMAN》のロゴとなるクロスは、自然とのバランスを重要視する彼女の世界観を表している。そして、その製品は今や数名となってしまった、伝統的な手工芸技術を受け継ぐサミの職人による、手間暇を惜しまないハンドメイドから生み出されいている。




 2010年5月、セレクトショップ『ARCH』の店頭に待望の商品が並び、北海道に《MARIA RUDMAN》が初上陸した。オーナーの山内公史氏が長い間思い描いていたアクセサリーは、北スカンジナビア・ラップランドの先住民族サミの古来から途絶えること無く続く伝統、現在も受け継がれる職人の卓越した技術はもちろん、北海道の先住民族アイヌとも通じる民族の魂への尊敬と共感を呼び、入荷と共に即時完売し大きな反響を持って迎え入れられた。そして、山内氏が書き込んだ当時のブログには、デザイナーであるマリア・ルドマン氏との出会いの記憶が、深い想いと共に綴られている。


 2010年1月某日。

 あの日僕は、ある人物に会うためにパリのホテルのロビーでとても緊張しながらその人を待っていました。彼女の名はマリア・ルドマン。北スカンジナビアに位置するラップランド、あのサンタクロースが暮らしているといわれている伝説の地域。かつてそこにはトナカイと共に暮らすサミ族と呼ばれる遊牧民族がいました。

 彼女はその地域で生まれ育ち、17世紀から続くサミ族伝統の手工芸技術を使ったアクセサリーを一点ずつハンドメイドで製作しています。それはレインディアと呼ばれるとても希少なトナカイの革を植物のタンニンで丹念になめし、ピューターと呼ばれるシルバーを5%含有させたスズを主成分とした銀糸で、一針ずつサミ族伝統の独創的なモチーフが編みこまれたバングル。留め具にはトナカイの角を削りだしたものを用いています。

 今日、彼らサミ族は定住生活を営んでいると言われています。特にチェルノブイリ原発事故以降、トナカイの汚染が進み、伝統的な放遊牧生活を送ることはいっそう難しくなってきているそうです。彼女がこの製作活動を始めた背景として、サミ族の伝統工芸と、その伝統的な技術を持つ極僅かな職人達を守るためでもあると話しています。僕自身、アクセサリーというジャンルにおいては、着飾るというファッション的な意味合いを持つものよりも、自分の身体の一部として愛着を持って身に着けることのできる物、それはある意味、とても男性的な発想かもしれないですが、そういったものに巡り合えた時、初めて『ARCH』でアクセサリーを展開したいと考えていました。そして、それこそがマリア・ルドマンの作るアクセサリーでした。

 あの日、ホテルのロビーまで娘さんと一緒に迎えに来てくれたマリア・ルドマン本人は、とてもスピリチュアルなオーラを放ちながらも、ものごしがとても柔らかい想像通りの素晴らしい初老の女性でした。緊張の中、無事にオーダーも終わり、ホテルを後にする自分に言っていた言葉がとても印象的でした。「私は北海道のアイヌの文化をとてもリスペクトしている。そのアイヌの伝統が引き継がれる地で、私の作るサミ族伝統のアクセサリーを紹介してもらえることはとても光栄です。」と。後に分かったことですが、現在サミ族は北海道の先住民族アイヌとの親交も実際にあるそうです。そういった意味でも、『ARCH』で《MARIA RUDMAN》のアクセサリーを展開できることは北海道民としてとても光栄なことだと思います。(2010年5月28日)

 あれから数ヶ月たった先日、遂にオーダー分がすべて出来上がり、既に日本へ向けて発送したとの連絡を受けました。今月末から6月にかけて、店頭に並ぶ予定です。個人的にも入荷がとても待ち遠しかったアイテムです。入荷後、またこちらのブログでご案内させていただきますので、ぜひ楽しみにしていてください。

『Blog from ArchStyle』
URL http://archstyle.tv/blog/



インタビュー(December,2012)
砂原 果 / 『ミサンガインターナショナル』バイヤー


>ショップでは早くから《MARIA RUDMAN》を展開されていましたが、取り扱われた経緯について聞かせてください。
 もともと、オーナーの山内は10数年前からブランドの存在は知っていて、日本でも当時ごく限られた店舗では取り扱われていましたが、『ARCH』の次なる展開として《MARIA RUDMAN》は必要不可欠なアクセサリーだと考えていました。まわりの噂では、デザイナーであるマリア・ルドマンは気難しく簡単には認めてもらえないと聞いていましたが、話だけでもさせてもらいたくて、バイインングでフランスを訪れる際にメールでアポイントを申し込みしたんです。結局、返信が無く会えるかどうかもわからないまま渡仏したんですけど、前日になって「ちょうどパリのホテルにいるから、良かったら会いませんか?」という連絡をいただけたんですよね。待ち合わせが四つ星ホテルのロビーで、「どんな方がいらっしゃるんだろう…?」と緊張していたのですが、現れたのは噂で聞いていたのとはまるで違う、物腰の柔らかい、穏やかで優しい女性でした。彼女と初めてお会いした時の衝撃は、自分にとってすごく大きかったですね。人柄や雰囲気からして素晴らしいものを作られているのはすぐに伝わって、案内された部屋で実際にアイテムを見せていただいて本当に驚きました。伝統的な手法を自らの感性によって現代に甦らせたアイテムは、単なるアクセサリーとしては括ることのできない、初めて見る類いのものという印象を受けました。

>実際にお会いされて、マリア・ルドマン氏はどのような人物でしたか?
 どんな方にも丁寧に接していて、本当に心優しい方という印象があります。マリアは19歳の頃に一度札幌へ来たことがあるそうで、ちょうど雪が降り積もっていて、とても美しい風景だったと嬉しそうに話していました。同時に、彼女はアイヌ文化に興味があり、とてもリスペクされていて、ゆかりのある北海道のショップで取り扱ってくれるのは光栄だとも仰っていました。《MARIA RUDMAN》自体、北スカンジナビア・ラップランドの先住民族であるサーミ族の伝統工芸品なのですが、マリアはサーミ族の伝統文化を守り抜くためにブランドを始めたそうなんです。アイテムは一点一点、熟練の職人さんの手によって丹念に作られているのですが、その職人さんも今では僅かになってしまったそうで、彼女の活動によって伝統的な文化や技術が次の世代に受け継がれていくのを期待していますし、私達も微力ではありますが、その魅力をお伝えしていきたいと思っています。

>《MARIA RUDMAN》のアクセサリーは、今や世界各国から注目を集めています。
 出会ってから一年後くらいに、パリの都心部に《MARIA RUDMAN》のショールームがオープンされたのですが、1900年代初頭の馬小屋がリノベーションされた、とても趣のある建物なんです。歴史のある建築が保存されているパリの中でも、そこまで古い建築でショールームにできる建物は数少ないと思うんですけど、物件探しからも彼女の深いこだわりが感じられます。10坪ほどのフロアで、2階へも上がれるようになっているのですが、そのショールームには、彼女が実際に身に付けていた、現在ではもう作ることのできない昔の職人の手によるサミなどマリアの貴重なコレクションの数々が飾られています。実は『ARCH HERITAGE WOMANS』で取り扱っているコインケースやパスケースも過去のストックで特別に譲っていただいたものなので、今ある在庫で終了してしまう稀少なアイテムなんです。

>バイヤーとして《MARIA RUDMAN》の魅力をどのようにとらえられていますか?
 《MARIA RUDMAN》のリストバンドは、“ピューター”と呼ばれる錫の銀糸で、繊細な網柄が編み込まれているのですが、身に付けていくうちにその“ピューター”がさらにキラキラと輝いていきます。ボディはトナカイの革を植物性タンニンでなめして、留め具にもトナカイの角が使われているのですが、永く身につけることで柔らかく馴染んだり、風合いが出てきたりと、経年の変化を楽しめるのは魅力のひとつです。アクセサリーというより、自然と身体の一部のように感じられるんですよね。ラインも、古来の紋様をそのまま使っているのが“オーセンティックライン”、マリアの感性が落とし込まれているのが“クラシックライン”のふたつに分けられ、個人の好みによって選べるようになっていて、一見すごく個性が強いように感じるかもしれませんが、どんなスタイルにも相性が良くて、常に身に付けていられるアクセサリーですね。あと、女性は特になのですが、1本身に付けると、また2本、3本と欲しくなってしまうんです。マリア自身が両手にたくさん重ね付けしているんですけど、そんな彼女のスタイルが憧れで、私もその影響を受けて重ね付けしています。



text Pilot Publishing / photograph Hideki Akita(TOOTOOTOO studio)
December,2012



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