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Guest 北海道を訪れた今を輝くゲストのスペシャルインタビュー


BONNIE PINK


今年7月に約2年振りとなる12thアルバム『Chasing Hope』をリリースした、シンガーソングライター“BONNIE PINK”。昨今の激しい時代変化の中で、糸を紡ぐように丹念に紡ぎ出された今作は、これまで以上に自身のありのままの想い、そして希望を求める切なる願いが色濃く反映されたメッセージ性の強い作品となっている。そこにあるのは、ごく日常の様々な情景。誰もと同じように傷つき、乗り越えてきたからこそ、彼女が語りかける楽曲は深い共感を呼び、そっと慰めるようにあたたかなぬくもりや優しい励ましを与えてくれる。





インタビュー(July,2012)
BONNIE PINK


>7月に御出演された野外フェス『JOIN ALIVE』でのライブは、会場は入場規制がかかるほど超満員のオーディエンスで盛り上がりました。

たくさん集まっていただけて、みなさんあたたかったですね。私の出番が2日目の終盤だったので、「やりきるぞ!」という勢いを感じました(笑)。時間が40分と限られていたので、セットリストを決めるのに悩みましたけど、私のライブをまだ観たことのない人もきっと多いと思うので、名刺代わりの楽曲も織り交ぜつつ、NEWアルバムからの楽曲も手ごたえを確かめるために披露させてもらいました。

>フェスへ出演されるのは珍しい印象があります。
夏に新作のリリースが重なることも多いので、タイミングが合えばになってしまうんですけど、チャンスがあったらたくさん出たいですね。北海道のフェスは気候も最高で、以前『RISING SUN ROCK FESTIVAL』にも出させていただいたんですけど、今回の『JOIN ALIVE』もすごく良かったです。遊園地の中なのでライブ以外でも楽しめると思うし、「VELVET CIRCUS」のステージも雰囲気があって気持ちの良い空間でした。また出演させていただける機会があるなら、ぜひまた同じ場所で歌いですね。

>ライブで観るのとCDで聴いた印象が大きく異なり、声量や迫力があって、バンドとしてのグループ感が強く感じられました。
レコーディングは声量が小さくても大きく聞こえるようにミックスできるので、パワーで押し切るような歌い方はあまりしません。逆にライブは発散の場だと思っているので、オーディエンスやバンドの演奏の影響で大きな声を出すことも多いです(笑)。私はCDとライブは別物と考えていて、CDは構築して楽しむというか、レコーディングでしかできない作り方のベストを目指していて、今作に関してはあまりデジタルに寄り過ぎず、比較的オーガニックに音作りしました。ライブはCDをそのまま再現すると言うよりは、その時しか聞けないアドリブであったり、そのバンドでしか出せない音のベストを目指すことに重きをおいているので、CDとのギャップを楽しんでいただきたいと思っています。もしかすると中には全く同じように聴きたいという方もいるかもしれませんけど、私がお客さんの立場だとCDとライブで違う部分に気がついた時に面白さを感じるし、自分がステージに立つ時もお客さんに別の楽しみを提供できるよう心掛けています。ソロなのでバンドメンバーが常に一定ではないし、ミュージシャンのスケジュールの都合もあるので、メンバーが流動的なところも逆に生かして、毎回新しいものを作る感覚でライブ作りに取り組むようにしています。

>ライブでは曲や詩がよりダイレクトに伝わってきます。
バンドがヴォーカルを主体に盛り立ててくれているからかもしれませんけど、CDでは自分の声を楽器のひとつと捉えていて、ミックスしていてもあまりヴォーカルだけ前で主張して、あとは後ろに一列に並んでるみたいなのが好きではなくて、どちらかというと音の中に埋もれていたいんですよね。まわりのスタッフにも「もっと声のレベルを上げた方が良いんじゃない?」と言われることもあるんですけど、私は溶け込ませたいから下げてしまうんです。逆にライブでも埋もれてしまうと意図が伝わり辛くなってしまったり、初めて観る方は特に歌詞がちゃんと聴こえた方がより楽しんでもらえると思うので、ライブではヴォーカルが一番伝わるようにしています。だから、ライブの方がダイレクトに言葉は届きやすいかもしれませんね。

>聴き方がいろいろ用意されていて、BGM的に聴き流せたりもしながら、よく聴くと深いメッセージも込められています。MCでは“スルメ系”と例えられていました(笑)。
CDは何度も聴いてもらえるチャンスがあるので、ぱっと聴いてわかりづらくても良いと思っています。一度聴いて全部わかってしまう作品だとつまらないし、繰り返し聴いて2回目、3回目にまた新しい発見がある方が買っていただけた方にとっても価値があると思うんです。目指しているものとして、同じ人間がやっているのに楽しめるポイントがたくさんあることにはこだわっていますね。CDとライブどちらも好きなんですけど、私は別の楽しみ方をしているし、別のプレゼンテーションをしています。

>同じく7月には12枚目となるNEWアルバム『Chasing Hope』がリリースされましたが、前作から2年の間に大きな時代変化もありました。
昨年は震災もあったので、直後はやっぱり音楽業界にも積極的な活動は自粛するような風潮が漂っていたと思んですけど、私はミュージシャンを離れて、一個人の人間としてできることをやろうとすぐに意識をシフトすることができたし、とは言え音楽を本業にしているのでいずれ音楽を通してパワーを届けられる日が来るといいなと思っていました。昨年前半は新曲を書いてリリースしてという気持ちにはなれなかったんですけど、ここ2~3年“断捨離”にハマっているせいもあってか、自分のこれまで作ってきた作品を改めて見つめ直すことに興味が向いて、セルフリメイクアルバムを作ってそれを披露するアコースティックツアーをすることにしました。私にとってはすごく収穫の多い1年になったし、時間をかけて次回作への心の準備をすることもできたし、年末からはそれまでいろいろと感じたことなどゆっくり言葉を選びながら作曲することができました。

>タイトルからもメッセージ性がより強く感じられます。
タイトルはいつも大体出来上がった頃に付けているんですけど、今作は“希望”という言葉を入れたくて、“Chasing Hope”というのは今の日本に一番しっくりくる気がしたし、これまで以上に時代性が反映された作品になりました。個人的に押し付けがましくて説教臭い音楽が好きではないので、自分が感じたことは言うけど、「こうするべきだ」とは言いたくなくて、テレビとかニュースを観ていて日々感じることがあっても、これまであまり社会的なメッセージを含んだ楽曲を積極的に作ってきませんでした。でも、昨年は自然災害以外にも人災があったり、地球環境とかいろんなものが乱れてきているように感じたので、それを浄化したいみたいな気持ちも強くて、“風”や“海”や“地球”とか大きなワードがたくさん湧いてきて、自然とそういうテーマの楽曲が増えたかもしれません。今作はピンポイントで誰かに向けたのではなくて、いろんな人の想いやエピソードをストーリーテラーとして歌っている気がしています。

>歌詞にはどこか傷つき、影を感じさせる人物が登場しています。
私が音楽でグッとくるのは、歌っている人の心の痛みとかが垣間見える時で、「ああ、この人も同じ人間で、私も同じ体験をしたことがある」と共感できた時にすとんと入ってきます。自分の書く楽曲も最終的には前向きな歌にしたいんですけど、だからと言って「明日は絶対上手くいくさ」みたいなことをただ楽観的に叫ぶ歌は嘘くさくて好きではないんですよね。一回底まで落ちて、そこから這い上がろうとしている感じが好きなんです。一回底まで落ちた人の方が落ちてない人よりももっと高い所にいける気がするんです。恋愛とかでも失恋をしたことのない人より、失恋を経験している人の方が魅力的じゃないですか。人間的にも深みや暖かみを感じる。作詞においても主人公はよりたくさんの試練を潜り抜けている方がドラマティックになるので、あまり平たんなストーリーはないかもしれないですね。

>今作は特に「生きていこう」という力強いメッセージを感じさせます。
昨年の震災後に被災地に炊き出しに行って、被災者にお話を伺う機会もあったんですが、震災というのは何時何処で起きるかもしれないし、明日は我が身かもしれないと痛感させられました。私は阪神大震災も経験しているので、自分自身にも何度も生かされてきたという実感があって、亡くなられた方の分まで必死で生きなければ申し訳ないと思ったし、その気持ちをメッセージにしたと言うと言い過ぎかもしれないですけど、曲にも書いて記録しておきたいと思いながら書いていました。「生きる」という言葉、生命力みたいなものを感じられるような曲が増えたかもしれないです。生死を分けたというか、みんな一様に等しく生きていたのに、何の定めなのか亡くなってしまった人と生かされた人がいたわけですよね。残された人間は震災があったからといって遠慮して生きることはないし、何かあった時になるべく動じないでいられるように備えることと、日々全力で生きることを忘れないでいられたらなと思っています。

>先行シングル「街の名前」のジャケットは函館で撮影されたそうですね。
坂が多くて、路面電車が走っていて、遠くに港が見える“どこかわかるようでわからない街”というイメージで、函館は一度くらいしか行ったことがなかったんですけど、私のイメージに近い絵が撮れて素敵なアートワークになったと思っています。函館の方には結構気付かれていたみたいですけど、気がつかない人からは「ポルトガルですか?」とか「サンフランシスコですか?」と尋ねられたりもします。聴いた人が自分の育った街でも思い出の街でもいいし、それぞれが自分の街に当てはめられるような可能性を残しておきたかったので、街を特定しないようなアートワークを心掛けました。

>御自身が乗り越えられた大きな転機はありますか?
わりと初期にあって、デビューしてすぐに髪を真っ赤に染めて3年間くらい過ごしたんですけど、どこへ行っても気付かれてしまうし、プライベートな時間も“BONNIE PINK”でいなくてはいけないのがだんだん窮屈になってきたんです。ある時に雑誌のヘアースタイル特集で、著名人の髪をあれこれ好き勝手言う座談会で、そこに私の写真がぽこっとあったんです。読んでみると、「名前が“BONNIE PINK”だからピンクの髪をやめられないんじゃないの?」みたいに言っている人がいて、大きなお世話だと思って…(笑)。その後すぐに金髪に変えたんですけど、私は縛られたりとか固定概念とか、パブリックイメージが定着するのがすごく嫌で、「あの人はこうだよね」と言い切られたくないんですよね。それまでのイメージを全て壊したくて、ちょうどそのタイミングで、気持ちを切り替えるためにニューヨークへ行ったんですけど、最初は3か月の予定で、居心地が良くて1年…2年と伸びて、結果的に大きな休憩になったんですけど、それが自分にとって一番大きな転機になりました。「本当に良いんですか?」と驚かれる人もいたんですけど、自分自身ではそんな大きい決断とも思っていなかったし、恐怖心も何もなくて、むしろその場に踏ん張って辛さに耐えながら活動を続けていく方が早く終わってしまいそうな予感がしたんです。

>長く続けられるために、先を見据えての休暇だったんですね。
「誰のためにやっていたんだっけ…?」と考え込むぐらいモチベーションが下がっていたので、半年くらい全く作曲しなかったんです。そのまま作曲しなくなってしまうかもしれないとも思ったんですけど、そのうちに自然と曲が浮かんでくるようになって、自分の“書きたい”という想いが蘇ってきたんですよね。デビュー間もない頃は、「作曲にこれだけ時間をください」とは言い出せなかったんですけど、でもそれは自分を守るためでもあるし。結局つまらないものを作って必死に売るよりは、時間が掛かってもちゃんとしたものを作って、みなさんに喜んでいただけた方が幸せじゃないですか。私は自分のペースでしか納得できる楽曲を作ることができないので、そのペースを守る大切さに気付けたニューヨークでの生活は、私にとって大きな財産であり、長く活動を続けるための基盤を作れたのもその時期だと思います。


12thアルバム『Chasing Hope』
WPCL-11114 / ¥3,000-(tax in)
前作「Dear Diary」以来、約2年ぶりとなる12枚目のオリジナルアルバムがいよいよ発売。スマッシュヒットとなったドラマ「ダーティ・ママ!」の主題歌「冷たい雨」と7月4日に発売される直近のシングル「街の名前」を含む全12曲収録。


BONNIE PINK
1995年にアルバム『Blue Jam』でデビューし、1997年にトーレ・ヨハンソンのプロデュースによるアルバム『Heaven’s Kitchen』でブレイク。その後レーベル移籍を経て、2006年にリリースしたシングル「A Perfect Sky」が20万枚を超えるヒットを記録。続くベストアルバム『Every Single Day -Complete BONNIE PINK(1995-2006)』は70万枚を越えるヒットとなり、年末には『NHK紅白歌合戦』に初出場を果たす。2011年、キャリア初のセルフリメイクアルバム『Back Room -BONNIE PINK Remakes-』を発表。2012年7月、約2年ぶり12thオリジナルアルバム『Chasing Hope』をリリースし、9月からは全国ツアーがスタートする。
オフィシャルサイト http://www.bonniepink.jp



text Pilot Publishing / photograph Syouta Tanaka
July,2012




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